AIがサービスに入り込むとき、人の頭の中で何が変わるのか

公開日
2026年6月6日
カテゴリー
研究 / AI / HCI / プロダクトデザイン

はじめに

スマホのアプリに「AIチャット」がついたり、ChatGPTに「この文章を直して」と頼んだり、最近はアプリを開かなくてもAIエージェントが裏側でサービスを操作してくれる——こういう体験、もう当たり前になりつつありますよね。

便利になった、という話で終わるのか。私は、そうではないと思っています。

サービスの「形」そのものが変わりつつある。画面をタップして操作するだけじゃなくなってきている。その結果、人が目的を達成するまでの頭の使い方も、負担のかかり方も、少しずつ変わっているのではないか——これが、私が大学院で取り組んでいる研究の出発点です。

この研究は、何をしようとしているのか

一言で言うと、「AI時代に、人とデジタルサービスの関係をどう見ればいいか、その観察の視点を探す研究」です。

実験でユーザーを集めて比較する、という形ではありません。すでにこの領域ではたくさんの研究が出てきているので、それらを横断的に読み、整理し、自分の問いに沿って意味を組み立てていく——そういう進め方を取っています。

最終的に出したいのは、「こういう切り口で見ると、人とサービスの関係が読み取れる」という観察の指標のようなものです。AIのモデルやツールは半年ごとに変わります。だから、特定の製品名に縛られない、もう少し長く使える見方を見つけたい、という狙いがあります。

背景:サービスのあり方が、3つの形で変わってきている

具体例を挙げると、いま目にする変化はだいたい次の3つに分かれます。

  1. 既存サービスにAIが機能として入る
    メモアプリに「要約して」、写真アプリに「背景を消して」——今まで自分で操作していた部分を、言葉で頼む形に置き換わっていく。

  2. AIを前提にしたサービスが生まれる
    最初から「AIと対話しながら使う」ことが前提のプロダクト。画面の設計そのものが、従来のアプリとは違う。

  3. 画面を介さず、AIエージェントがサービスを呼ぶ
    MCP(Model Context Protocol)のように、ユーザーが直接アプリを開かなくても、AIエージェントが裏側でカレンダーやメールを操作する。GUI(画面)を介さない使い方が増えつつある。

この3つは別々に起きていますが、共通しているのは「人が目的を達成するまでのプロセスが、以前と同じではなくなってきている」ということです。

人の側で、何が変わるのか

たとえば、デジタルサービスの研究では「実行のガルフ」「評価のガルフ」という言葉があります。ざっくり言うと、「やり方がわからない」「結果が思った通りか判断できない」という、頭の中のズレのことです。

AIが入ってくると、こういったズレの出方が変わります。

  • 操作の負担は下がる一方で、「頭の中のイメージを言葉にする」負担が増える場面がある
  • AIに任せたあと、出力が正しいか確認する負担が増える場面もある
  • 毎回同じ操作で同じ結果が返ってくる、という「慣れ」も、AIでは成り立ちにくい

つまり、負荷が消えるのではなく、別のところに移動したり、新しい種類の判断が必要になったりしている——そういう変化に関心を持っています。

なぜ、実験ではなく文献を読むのか

最初は、AIあり/なしで制作して比較する、という実証寄りの方法も検討していました。しかし、いくつか壁がありました。

  • インタビューでは、見たい場面の細かさまで聞き取れない
  • 文章やデザインのような「正解が一つじゃない」作業では、「気づいた/見逃した」を客観的に判定しにくい
  • そして調べてみると、この領域の研究はすでにかなり蓄積されている

そこで方針を転換しました。自分の問い(仮説)を軸に、複数の視点から既存研究を読み、横断的に整理する——いわゆる「串刺し」という方法です。串刺しそのものが目的ではなく、ある論点を、場当たり的にならないよう、複数の切り口から構造的に見ていくための手段です。

たとえば「委譲」「確認・検証」「認知負荷の移動」「サービス形態の変化」といった視点を持ち、各論文がそれぞれ何を言っているかを並べる。ある視点では研究同士に共通点が見え、別の視点では見えない——そういう整理を重ねていくと、観察の指標が浮かび上がってくる、という考え方です。

いま、どこまで進んでいるか

2026年6月時点では、方法の骨組みを固め、中核となる30本の論文を精読しながら進める段階に入ろうとしています。すでに4本は深く読み終えています。

各論文のノートは三層でそろえます。内容の要約、論文ごとの章立てに沿った整理、そして横断比較用の共通レイヤー(鍵概念、主張・根拠の整理、自分の問いとの接続)。読みは自分で行い、AIは収集や下書きの補助に使う、という方針です。

結論は、まだ決めていません。視点は先に置きますが、何が共通して見え、何が見えないかは、読みながら立ち上がらせるつもりです。主観的な整理になるので、論証の論理を透明にすることが重要だと考えています。

おわりに

「AIが便利になった」という話の、その先にある変化——人がサービスを使うときの、プロセスや認知、負荷の変化——を、観察できる形で言語化したい。それがこの研究の核心です。

まだ答えは出ていません。でも、サービスの形が変わるたびに、私たちの頭の中でも何かが静かに動いている。そう感じたことがある方にとって、少しでも具体的な地図になれば嬉しいです。

次のステップは、研究の軸になる「粗い論点」を一文で固定し、残りの論文を読み進めること。進捗や気づきは、また別の形でも共有していきます。

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